宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2018年6月8日、10月に打ち上げ予定の水星探査機の愛称を「みお」に決めたと発表しました。「みお」は船の航跡などを表す言葉で、これまでの開発の道のりや航海の安全を示すことなどを理由に選んだそうです。
愛称は2月から募集し、応募件数は国内外から約6500件。
水星の探査は欧州宇宙機関(ESA)との共同計画。「みお」は打ち上げ後、2025年12月に水星の周回軌道に入り、磁場やちりなどを調べます。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2018年6月8日、欧州と共同で開発中の水星探査機「ベピコロンボ」(BepiColombo)のうち、日本側が開発・運用を担当する機体の愛称について、「みお」に決定したと発表した。
みお」の打ち上げは2018年10月の予定で、水星まで約7年かけて飛行し、2025年12月に到着。そこから約1年間にわたって観測を行う。
ベピコロンボは、水星がどのようにして誕生し、どのような歴史を歩んできたのかといった謎の解明に挑む。そしてその成果は、この宇宙のどこかにあるかもしれない、もうひとつの地球のような天体を発見することにつながるかもしれない。
◆水星に挑む「みお」
太陽に最も近い惑星・水星。金星や火星などと比べると、存在感は少し薄い。水星は他の惑星より小さく、また位置の問題もあって地球から見ることは難しく、さらに太陽に近いため、望遠鏡を向けたり探査機を送り込んだりすることも困難で、これまで詳しく観測された例は数えるほどしかない。そのため、水星にはまだ多くの謎が残されている。
日本と欧州は1990年代の終わりごろ、それぞれ水星を探査しようと計画。その後、共同でやろうという話が持ち上がり、「ベピコロンボ」計画として実現することになった。
ベピコロンボは主に、欧州が開発を担当した「水星表面探査機」(MPO)と、日本が開発を担当した「水星磁気圏探査機」(MMO)、愛称「みお」の2機の探査機からなる。この2機と、専用のロケットなどが合体して水星まで向かい、水星に近づいたところで分離し、それぞれが観測を行う。
こうした複雑な仕組みや、また2.7トンもある大型の探査機であること、さらに太陽からの熱に耐えるための工夫が必要だったことなどから、開発は困難を極め、計画は遅延し、打ち上げは何度も延期された。そこに輪をかけて、日欧の共同開発という困難もあった。
昨年7月の完成時、関係者は「とくに考え方の違いでは苦労しました」と語る。日本と欧州では、探査機を造る際のやり方や考え方が違うため、それをすり合わせ、お互いが納得できる形で造り上げていくのが難しかったという。
しかし、困難を経てようやく完成し、現在はロケットに搭載する準備段階にある。順調に行けば、2018年10月に打ち上げられ、7年後の2025年12月に水星に到着。約1年間にわたって観測を行うことが計画されている。
◆水星に秘められた謎
ベピコロンボは大きく、水星の「生まれ方」、「育ち方」、そして「生まれた場所」の謎を解明することを目指している。
たとえば、水星の姿かたちは地球の月と似ており、そのためかつては、水星と月は同じような星だと考えられていたこともあった。しかし近年の探査で、水星には月とは異なる鉱物がたくさん見つかっており、実は似て非なる星であることがわかった。では水星はいったいどうやって生まれたのだろうか?
また、近年の探査で、水星の表面にはつい最近まで火山の噴火があったことを示す、変わった地形が見つかっている。しかし、水星はとても小さな星なので、いくら太陽に近いとはいってもすぐに熱が逃げて、冷え固まってしまうはずである。もし、過去に火山があったとするなら、いったいどのようなメカニズムで起きていたのだろうか?
さらに表面には、ガスが吹き出たような痕跡も発見されている。しかし本来なら、水星が今の形になるまでに、太陽の熱でガスがすべて抜けてしまい、そもそも内部にガスは溜まらないと考えらる。では、水星はいったいどこで生まれたのだろうか? ある仮説では、水星はもともと、今より太陽から遠く離れた寒いところで作られ、その後太陽に近づき、内部からガスが噴出したという、ちょっと想像しにくいようなダイナミックな出来事が起きた、と考えられているが、まだその証拠は見つかっていない。
こうした謎に、ベピコロンボの探査で終止符を打つことが期待されている。
◆“もうひとつの地球”について知る手がかりにも
水星を探査するもうひとつの意義は、この宇宙に無数にある他の惑星、それも生命がいるかもしれない星の研究に役立つと考えられていることがある。
これまでの観測で、太陽系の外に、3000個を超える数の惑星(系外惑星)が見つかっている。その中には地球のように岩石ででき、また温度が生命の居住に適していると考えられる星もいくつかあり、地球外生命体がいるのでは、という機運も高まっている。
しかし、そのすべてが太陽系や地球と同じ姿かたちや環境をしているわけではない。
むしろ太陽系の姿のほうが異端なほどで、たとえば水星と太陽との距離よりもはるかに恒星に近いところを惑星が回っていることもある。この場合、恒星から出る高速のガスなどから受ける影響は、水星と同じくらい厳しいものになる一方で、気温は生命が存在できる状態になっている場合もあり、その星に生命がいないとは言い切れない。
つまり、水星の環境について詳しくわかれば、こうした惑星がどのような環境なのか、そして生命が存在できる地球のような天体があるのか、そのための条件はどういったものなのか、といったことについて知る手がかりになる。そして、その成果はいつか、もうひとつの地球のような天体を探す手がかりになるかもしれない。
長年、ほとんど手つかずだった水星探査に挑む、日欧共同開発の探査機ベピコロンボ。日本側の探査機に「みお」と名付けられた理由には、「みお」が河川や海で船が航行する水路や航跡の意味をもつこと、また古くより船が航行するときの目印にする標識を「澪標」(みおつくし)と呼ぶことから、これまでの探査機の研究開発の道のりを示すとともに、これからの航海安全を祈る意味があるという。
また、澪標は、和歌では「身を尽くし」の掛詞になることから、努力と挑戦を続けるプロジェクトメンバーの思いも表しているとしている。
名前に込められた想いが叶い、探査が成功することを願いつつ、間近に迫った打ち上げを心待ちにしたい。
<文/鳥嶋真也>
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
引用元「“もう一つの地球”の可能性と、水星の謎に迫れ。日欧共同開発の水星探査機、愛称「みお」に決定(HARBOR BUSINESS Online) – Yahoo!ニュース」
目次
水星磁気圏探査機MMOの愛称は「みお」
日本とヨーロッパが共同で進めている国際水星探査計画「ベピコロンボ」で、日本が担当している水星磁気圏探査機MMOの愛称が、公募により「みお」に決定した。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)はヨーロッパ宇宙機関(ESA)と共同して、国際水星探査計画「ベピコロンボ(BepiColombo)」を進めている。日欧初の大型共同プロジェクトとなるこの計画では、JAXAが磁場・磁気圏の観測を行う水星磁気圏探査機「MMO(Mercury Magnetospheric Orbiter)」を、ESAが表面・内部の観測を行う水星表面探査機「MPO(Mercury Planetary Orbiter)」を開発している。
このMMOについてJAXAが今年2月から4月まで愛称を募集したところ、6494件の応募があった。選考の結果、愛称として「みお(MIO)」が選ばれた。
選定理由:
「みお」は河川や海で船が航行する水路や航跡の意味を持つことから、これまでの探査機の研究開発の道のりを示すとともに、これからの航海安全を祈る愛称であること。
古くより船が航行するときの目印にする標識を澪標(みおつくし)と云い、和歌では「身を尽くし」の掛詞になることから、努力と挑戦を続けるプロジェクトメンバーの思いを表していること。
水星の磁気圏によって変化する太陽風のプラズマの流れの中でMMOが探査するという状況と、船が流れの中を進むイメージが合致すること
海外の方にも発音しやすいこと。「みお」とMPOは今年10月にESAのアリアン5型ロケットで一緒に打ち上げられ、7年後の2025年12月に水星の周回軌道に入る予定だ。水星到着後に両機は分離し、協力しながら1年間かけて観測を行う。
引用元「水星磁気圏探査機MMOの愛称は「みお」 – アストロアーツ」
国際水星探査計画(BepiColombo)と「みお」について
国際水星探査計画(BepiColombo)は、ESAとJAXAの共同で、観測目的に合わせた「2つの周回探査機」を水星周回軌道に送り込んで水星を観測する計画です。水星の表面・内部の観測を行う「水星表面探査機(Mercury Planetary Orbiter:MPO)」と、水星の磁場・磁気圏の観測を行う「水星磁気圏探査機みお」)から構成されています。
JAXAは、日本の得意分野である磁場・磁気圏の観測を主目的とする「みお」の開発と水星周回軌道における運用を担当し、ESAは打ち上げから惑星間空間の巡航、水星周回軌道への投入、MPOの開発と運用を担当します。
「みお」とMPOはアリアン5型ロケットで一緒に打ち上げられ、水星到着後に分離して、協力しながら約1年間の観測を行う予定です。